スポンサーリンク

【読書記録】君の顔では泣けない – 君嶋彼方

小説

書籍紹介

  • 著者:君嶋彼方
  • 出版社:KADOKAWA
  • ページ数:256

ざっくりあらすじ

高校1年生の坂平陸は、クラスメイトの水村まなみと体が入れ替わってしまった。授業中にプールで一緒に落ちたのがキッカケ。元に戻ろうと色々試すも上手くいかず・・・

身体が戻った時のことを考えて、2人はお互いになりきって生活を始める。「坂平陸」をそつなく演じるまなみの一方で、「水村まなみ」として上手く振る舞えない陸は責任を感じていく。

高校卒業後の進路を考え始める高校2年生の2学期、まなみは陸に切り出す。「私は好きなことをさせてもらう」――元の身体に戻ることを考えず、お互い好きな人生を歩もうと言う。

坂平陸として親友にも両親にも認識してもらえないまま、元には戻れないのか。「水村まなみ」として新たに生き直すべきなのか陸は葛藤を抱えながら15年の月日が流れていく・・・

感想

今回紹介するのは入れ替わり系の小説。主人公の坂平陸と水村まなみが、高校1年生の時に一緒にプールに落ちたのキッカケに、身体が入れ替わってしまって・・・という物語。

ここまで聞くと、まぁよくあるテーマ。ラブコメとか青春小説などの作品が思い浮かぶところ。こういったテーマは最後には入れ替わりが解消されるのがお約束ですが、入れ替わりが戻らないまま15年の時が経過します。

入れ替わった後、高校生の2人はそのまま成長して大人になって、恋愛・進学・就職・結婚・出産という人生の転機を経験をしていきます。秘密を親友にも家族にも打ち明けらないまま。

そんな設定が入れ替わりというありふれたテーマだけど、ユニークな小説に変えています。

話は陸の語りで進むのですが、不安や葛藤の描写が印象的でした。克明に描かれていて胸にくるものがあります。

秘密を誰も話せないもどかしさ、アイデンティティの喪失感、まなみの人生を背負っているプレッシャー、入れ替わりが戻らない不安と諦めなど、ひしひしと伝わります。ここまで現実的にシリアスにネガティブな感情を描いたのはあまりないのでは?

本作は「自分の存在」について考える青春小説であり、家族小説でもあって、性・ジェンダーの要素も盛り込まれて重層的です。それでいて一気読んでしまう物語の面白さもある作品でした。感情移入ぎみに読んでしまったので、読後のロス・喪失感はヤバかった・・・

そういえば『秘密』もある種、入れ替わりがテーマでしたがシリアスな話でしたね。そして誰かの人生を代わりに生き抜くというところも共通していて。あと女性がしたたかだった。

恋愛関係に発展させないのが良い

身体が入れ替わったお互いのことが好きになって恋愛関係になるのが、だいたい起こる。でも、まなみと陸はそうならず、一生の戦友といった関係に落ち着きます。地味に二人のハイタッチが好き。いいコンビという感じで。

恋人ではなくとも、自分の身体の代わりに必死に生き抜いてくれた相棒として結ばれた強い絆を感じてグッときました。

「本当の自分」を知っている唯一の存在として心の拠り所として、ひたすらに互いを思い、支え合って生きているのが美しい関係だなと。特に27歳の章で出産を控えた陸が不安をまなみに吐露し、今までの感謝を互いに伝え合うシーンとか胸にきましたね。

約束が人を生かす

そんなお互いにとって大きい存在でも、大人になるにつれて頻繁に連絡を取らなくなっていくのも良かったです。7月の第3土曜日、年1回だけ会って近況報告をするくらい。

例えば普段は連絡は取らなくても定期的に顔を合わせては、一瞬で今までのように打ち解けてしまう友人とか。そんで「また会おう」とか言って別れて、また合う日まで楽しみにする。これって現実の世界でもあるよなーと。妙に共感してしまいました。

ただ俺たちは、また年に一度、七月に会う。会って話して、そしてまた来年ねと言って笑って手を振り合う。それだけで充分だ。それだけで俺たちは生きていける。誰かとの約束には、人を生かす力がある。

君嶋彼方『君の顔では泣けない』位置3058(Kindle版)

結局のところ最終的に心の拠り所を見つけられたことが二人にとっての救いなのかなと思いました。

いつ入れ替わりが終わるか分からない不安の中で生きていく辛さがあるけれど、二人だけが分かる約束が心の支えとなる。約束の日まで頑張っていられると。もはや運命共同体。

まぁ、この心境に二人が至るまでに15年間の入れ替わりを経験することになるんですが・・・

それまで陸の「自分の居場所はどこにあるんだろうか」「いつまで入れ替わりが続くんだろうか」という、先の見えない苦悩や葛藤を読んできているんですよね。

僕としては心の拠り所をよく見つけられたね、と二人を褒めてあげたいし、感動もひとしおです。

相棒の心強さ

まなみの寛容さ・励ましが温かく感じました。まなみと陸が一緒にいると、どうにも安心してしまう。他愛もない言葉の掛け合いを読みながら期待してました。

こう感じるのは、まなみの視点を描いてないからかもしれないですね。彼女も本当は葛藤や悲しみを感じていたかもしれない。彼女の強がりや気遣いなのかもしれない。この辺は物語中にそんな描写されててないので推測するしかないところ。

それにしても高校卒業あたりで「この身体で生きていくんだ」と、気持ちの切り替えができる彼女はすごいな〜と感心してしまいました。

入れ替わり後の描写が丁寧

女性の身体に入れ替わった時の感覚や、それにまつわる出来事が丁寧に描写されているのも特徴的でした。意外と性別の差を強調して書かれている小説でもあります。

物陸が初めて体験する月経の描写が小説序盤から出てきて生々しくて面食らいました。あと、力が弱いので自転車の立ち漕ぎが続かないとか、日常の些細な男性との違いにも触れていて。新鮮な気持ちになったり、男性としての日頃の行いを反省したりしました。

入れ替わりという設定にすることで、こういったジェンダー問題に言及できていて「今っぽいな〜」と感じたり。

特に衝撃だったのが、陸が磯矢に襲われた時の描写。これは女性の無力さを際立って表れていて「抵抗する力が無いってこういうことなんだな・・・」と読んでいて怖かったです。

時が経つにつれて陸が段々と女性的な思考になっていく?ところも興味深かったです。やっぱり身体の構造とかホルモンバランスが変わるとメンタルに影響あるんでしょうか。

コメント