読んだきっかけ
友人からもらった積読本の消化。三島文学第4弾。
ざっくり要約
- 人妻が不倫にハマって別れるまでの1年間を描いた話
- 主人公、節子は躾の厳しい家庭で育った品行方正な女性。28歳
- 夫と一人息子を持つ
- 所作や言動は品が良く洗練されているが、頭の中で妄想を膨らませがち
- 8年前に知り合った男友達、土屋と偶然再開する
- 幾度も顔を合わせるようになり、ついに身体を重ねる関係へ
- 不倫にハマっていく節子。もはや土屋の心の奴隷に
- 土屋との関係を持った結果、3度の妊娠と中絶を経験
- 敬愛する父、景安との会食する節子
- 国家を代表する立場にいる父に、スキャンダルが及ぶことを恐れる節子
- いよいよ節子は土屋に別れを伝える。あまりにもそっけない反応の土屋
- 数カ月後、節子は土屋に手紙を書く
- 別れてからの苦しみ、どれだけ愛していたかをしたためる
- 手紙は出さずに破って捨て幕を閉じる
感想
金閣寺の発表後、評価が爆上がりした作者が気晴らしに書いた作品だそうな。前回の金閣寺で挫折した経験の反動もあってか、とても読みやすく感じました。
作者の巧みな文章表現のおかげで描写は美しいんですが、節子が実際にやっていることは誠にえげつないです。不倫行為で3回も妊娠しては、夫にも不倫相手にも秘密にして中絶。女友達の旅の付き添いと偽って不倫相手とデート。夜、夫が眠っている傍らで不倫相手との妄想をしたり…などなど。
こんな設定、さすがにやりすぎじゃないですかね?
こういう人、現実にいるんでしょうか?美徳とは・・・?と考えさせられます。むしろ読者に問わせることが作者の目的なのか…?などと迷走してしまうくらい、主人公のキャラ設定と行動がなんかチグハグで混乱しました。
箱入り娘の不倫
この小説は箱入り娘で育った女性が、ひょうんなキッカケで官能に目覚め、不倫にハマっていく話。
親から大事に育てられたがゆえに、節子は世間知らず。結婚した夫も親からの薦めで結婚したとのこと。そんな恋も知らないようなキャラ設定になってます。
渦中の不倫もなんだか節子の一人相撲が色濃く、なんだか滑稽に見えてしまうところ。感情の浮き沈み、中絶、別れとか、なーんか節子が舞い上がって思い込んで話が進んでいくんですなー
あと不倫相手とのテンションの温度差の描写とか思わず笑ってしまって。これ不倫相手にもてあそばれてね?身体が目的にされてね?って感じで読み進めました。
中絶のことも周りに言わず一人で抱え込んで対処するし。1950年代の物語だし、時代背景的にも一人で抱え込まざるを得なかったのでしょうか?
文体も三人称視点ではありつつも、節子の言動・心情のみが描写されてるのが特徴です。
相手の言動も節子から見える事しか言及されず、心理描写までは踏み込まない。そういったレトリック?も節子の「舞い上がってる感」をより演出してるのかなーと感じました。
三人称視点ながらも、1人のキャラクターのみを描写にすることで出てくる「信頼できない語り」っていうのは、アガサ・クリスティの『春にして君を離れ』に似てるなーってふと思い出したので紹介。こっちはサスペンス寄りで肝を冷やす話です。
なぜ不倫にハマったのか?
読了後の感想を振り返ってみて思うのが、なぜ不倫にハマったのか分からないといったところ。
うーん。(実際の不倫もこんな感じなの…?)読み進めているうちに、いつの間にか節子はドツボに落ちていきます。
主人公の心の内にどういう動機があったのかがイマイチ把握できてないのが残念ポイント。求められている自分が好きなのか、恋愛への憧れなのか、スリリングな状況に刺激を求めていたんでしょうか?
やっぱり節子の満たされない承認欲求が源泉なのかなーと僕の中では推測してます。
いまいちハラハラはしないストーリー
結末としてはスキャンダルもなく無事?に不倫関係を終わらせますが、読む側として特別ハラハラしなかったです。
ひたすら主人公の気持ちの揺れ動きを追っていくようなストーリーになっていて、トラブルが起きても首尾よく解決しちゃいます。夫は何も知らないような様子。
サスペンス好きな僕としては「痴情のもつれ」的な展開もあったらいいなとは思いましたが・・・それは無粋なんですかねー
心情描写に重きを置いた作品だと思うので、これは仕方ないと。スリルを求めるなら他の作品を読め!っていう話ですね。
抽象的な概念とか話が入り組んだ作品よりも、こういう俗っぽい話の方が読んでいて気持ちがノッてくる感じがします。
こう、欲望や業から人間の心理がビンビンに伝わってくる感じが心地いいし、ブログで書きたいことも溢れてくる。自分なりの考察がはかどるもんですな。
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