読んだきっかけ
定期的に聞いてる書評Podcastで紹介されていたのがキッカケ。
人気が高いし芥川賞受賞とかで、ミーハー心に読んでみた。
ざっくりあらすじ
山下あかり、女子高校生。今作の主人公。アイドル上野真幸の熱心なファン。アルバイトでお金を稼いではオタク活動に費やしている。
彼女にとってオタク活動は人生の生きがい。自身では「背骨」と表現している。推しアイドルの作品や人となり「すべて」を解釈したいと思うほど。アイドルが出演するコンサートはもちろん参加、グッズは購入、ラジオでの発言を書き起こしてファイルにまとめるほど。
そんな推しがファンを殴った。炎上する中、彼女は相変わらず応援をするも・・・
感想
全体的に淡々とした文章。ドラマチックな文体ではないけどスルスルと読み進められた。
内容は炎上してるアイドルを推してる女子高生の話。とはいえ真相を追っていくミステリー要素はない。あかりのオタク活動、日常生活が描かれる。
読後の感想は・・・なんとも言えない感じ。スッキリ爽快!っていうわけでもないし、ズーンと暗い気持ちになるってことでもなかった。
非ヲタがヲタ活を読んでみる
僕はアニメ作品、アニメキャラ、映画、小説、アイドルとか何か一つ対象にめちゃくちゃ夢中になったことがない。「ヲタ活」をしたことがない。
もちろん「読書」という行為自体はいくらでも続けられる趣味だと思ってる。けどやっぱり、何か1つの対象に熱意を注ぐことはないな。という感じなので、主人公と少し距離を置いた読み方をしていたのが正直なところ。
むしろ、「オタクの人たちはどんな事を考えているんだろう?」という視点で読んでた気さえする。
とはいえ完全に無共感なわけじゃなかった。ネットにアクセスすれば、楽しそうな様子が目に飛び込んでくるSNSやオンラインコミュニティ。生独特の雰囲気を持つ同級生とのやり取り。
そういう描写がちょっとした共感を覚えたかなー。他の読者はこうした日常生活シーンで共感するポイントが多いのかもしれない。
でも今作はただのアイドルオタク女子高生の話ではない気がする。
あかりのキャラ設定に一捻り入れているところが肝心なような気がして。それが熱心なヲタ活をする動機に繋がっているように読めて、強く印象に残ってる。
生きがいと自己肯定感
あかりは恐らく発達障害だ。作中で診断名は明かされてないが、なにがしかの診断が2つされたと言及されている。
回想シーンで彼女の母と姉が、本人のいないところで「あの子は何もできない」と愚痴のような諦めのような会話がされている(しかもそれを陰で本人が聞いていてキツい)。たぶんADHDや学習能力が低い、集中力が保てない障害なのかなと思った。自身も不甲斐なさを感じている描写もある。きっと自分の惨めさで劣等感MAXだろう。
そんな彼女が出会ったのがアイドル。次第にヲタ活が自身にとっての生きがいになった。彼女は「背骨」と表してる。
あたしには、みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる。だけど推しを推すことがあたあしの生活の中心で絶対で、それだけは何においても明確だった。中心っていうか背骨かな。
出典:宇佐見りん『推し、燃ゆ』
背骨といったら人間のなくてはならない部位。生きがい以上のものなんだなと伝わってくる。もはや推しなくて生きていけないくらいなんだろう。僕は最初「無償の愛なのか?アガペーなのか?」とか思ってたけど、たぶん違ったなと思うに至った。
この活動はもしかしたら、めちゃくちゃ低い自己肯定感や劣等感の埋め合わせ行為なのかな?と思うように。あかりの実生活はどうしようもないけど、推しを応援することで誰かに貢献してる満足感や、自己肯定感を得ているのかなと。
個人的な感想を言うと、本来の人生と趣味の主従関係があべこべっていうか、心の拠り所を他者に委ねきっているように感じてしまった。これは僕がオタクと呼べるほど熱意を持たないからこその感想かもしれない。
それはともかくとして、生きる意味をヲタ活に全て集約してしまうほどに、あかりは劣等感で溢れてたんだろうと想像した。楽しくあるべき趣味に一抹の悲しさを感じる。
こんな感じでリアル生活で見かけるオタクの人たちとは人物設定が少し違う。これが「ただのアイドルオタク女子高生」ではない作品だなーと思ったところ。
拠り所の消失
物語の最後にはあかりの心の拠り所を失ってしまう。それでも「這いつくばって生きていく」と、なにかと上手く行かない人生を受け入れて前に進む兆しが見えた。
これは推しが失くなったがゆえに、否応なく自分と向き合わされた結果なのかもしれない。「燃ゆ」というのは推しの炎上だけではなく、拠り所の消失という意味もかけていたのかなーと勘ぐったり。
一方、現実世界でヲタ活をしてる人はどう感じるのだろうか。アイドルとかアニメっていつか終わりが来るわけで、そうした移ろいやすい対象を生きがいとするのはどういう気持ちなんだろう?
自分にとって大切なものが消えやすい人たちは何を感じてるんだろ?疑問は残る読後感だった。
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