書籍紹介
- 著者:東野圭吾
- 出版社:文藝春秋
- ページ数:452
ざっくり要約
39歳の会社員、杉田平介には家族がいる。妻の直子と娘の藻奈美と3人で暮らしていた。直子の実家がある長野へ長距離バスで移動中に事故に合う。直子は藻奈美をかばって命を落とし、藻奈美は植物状態に。奇跡的に目を覚ました藻奈美には直子の意識が宿っていた。
平介たちは直子と藻奈美の「秘密」を守りながら不思議な生活を過ごす。直子は藻奈美の代わりに後悔の人生を送らせたいと決心する。中学受験に合格し、高校受験、医学部への進学を目指して勉学に励む。
次第に学校生活に順応していく直子に、平介は若さへの羨望、妻を失ってしまうかもしれない不安を抱く。さらに直子に好意を寄せる男子の影が表れ、平介の嫉妬心が芽生えて直子を束縛するようになってしまう・・・
感想
今回紹介するのは東野圭吾『秘密』です。ガリレオシリーズとか、加賀恭一郎シリーズを読んでいたので、殺人事件を中心としたミステリー作家としての印象が強かったのですが、こういう家庭を題材にした小説も書いているんですねー。
特に印象に残ったのが、物語中盤から嫉妬心を燃やす平介。直子を束縛しようとするところは読んでて正直きつかったですね。家の固定電話を盗聴するとかマジか・・・と。「平介やめとけって!」と思わず呟いてしまいました。
娘と妻の入れ替わり以外にも「秘密」の要素は物語に組み込まれていまして。運転手がバス事故を起こした本当の理由とか語られたり、その「秘密」が後々に物語に絡んできたり。ラストの秘密が分かった時はどんでん返しのような感覚を味わいました。こういうところとかミステリー作家っぽいなーと。
すれ違う夫婦
小説の大半が夫婦の溝が深まっていくところを描いているんですが、その寂しさや嫉妬心が伝わってきて切なかったです。
直子は心機一転、娘の人生として後悔しないように生きることを決めて前を向くんですが、一方で平介は「妻であった直子」のことを忘れられず、失うことを恐れて過去に執着してしまいます。
昔の関係性に囚われてしまって、嫉妬して束縛してしまうんですね。このことは平介の部下が向上でこぼした台詞が暗示的で印象に残りました。
誰だっていつまでも子供でいたいわけだよ。馬鹿だってしていたい。だけどそれを周りが認めなくなるんだな。あんたそろそろお父さんなんだからしっかりしなさいとか、もうおじいちゃんなんだから落ち着きなさいってことになっちゃう。違うよ俺はただの一人の男なんだよなんていっても、許してくれない。
東野圭吾『秘密』p.270
なんだかこの関係性に男女の性質の違いが表れているのかもな―と思いました。過去を引きずる男性を横目に、今までのことは水に流して力強さを先を進む女性を類推したり。
男女・既婚未婚で共感する部分が変わってくると思ったので、色んな人の感想を聞きたいですね。
感動で泣ける・・・?
本書の帯に「泣ける感動作」とあったのですが全然違いました。むしろ女性の強かさを感じて恐ろしかったですね・・・前評判を信じて読んだらダメージ受けると思います。
「直子と娘の人格が交互に入れ替わる」ことで、計画的に「直子」を消し去ったのだと最後に知った時は、恐ろしくて鳥肌が経ちました。
30後半まで生きてきた自分の人生・人格を捨てて、娘として完全になりきるというのは半端ないメンタリティだと思います。今後、平介とは「娘」として顔を合わせることになると思いますし、どんな気持ちになるだろう・・・
せっかく平介が嫉妬から目を醒まして元の関係に戻れそうと思ったのに、娘になりきる人生を選んだ直子。なんで「直子」のまま、平介と家族として暮らすことを選ばなかったんでしょうね。この辺、直子の心情を書かないあたり、わざとっぽいなーと感じてしまいます。
それにしても、一人で離れてしまった妻を思う平介の気持ちを想像すると切ないです。知らなきゃよかった秘密もありますね。
直子視点で読んでみたい
物語の語りは平介の視点で描写されているので、直子の「本当の心情」というのは分からないんですよね。もちろん台詞はあるんですが、それが本当に本心なのかは分からない・・・しかも「鈍感な夫」である平介の視点で説明されるので余計分からんのですよ。これは深読みしすぎですかね・・・?
学生生活を送っている時、思春期を迎えた娘の身体で過ごす時、平介が「娘」として接することを決意した時、直子は何を考えたのか・・・などなど気になりすぎる。人生やり直せてラッキー!とか思ったんですかね。
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